看取りでの経験を語る会を開催
平成31年2月10日(日)J:COMホルトホール大分(201・202会議室)において、市民の集い 市民公開講座「看取りでの経験を語る会~それぞれの立場から看取りを考える~」を開催致しました。定員の100名を上回る参加があり、盛況のうちに終了いたしました。また、今回の講演会は、公益財団法人在宅医療助成 勇美記念財団の助成を受けて開催しています。
この会は、ご自身が希望する地域や場所での看取りが実現できるよう、自分たちが生活している地域で、どのような医療支援を受けることができるのか、ホスピスや訪問看護がどのような役割を担っているのか、そして、大切な人を看取る体験はどのようなものなのか、医療従事者、ご遺族、さまざまな立場からの講演を聴いていただき、医療者、市民が共に「看取り」を理解し、考える機会にしたいと開催されたものです。
講演の第1部では「最期まで『その人らしく生きる』を支えます」をテーマに、看取りに関わっている緩和ケア認定看護師のお二人に「ホスピスでの看取り」、「在宅チームによる看取り」についてお話していただきました。
「ホスピスでの看取り」についてお話いただいたのは、大分ゆふみ病院 緩和ケア認定看護師・看護師長の堺 千代さんです。勤務されている大分ゆふみ病院の紹介と共に、どのような方が入院されるのか、入院の手続きは、どうしたらよいのかといった話から、実際に入院するとどのようなケアが受けられるのかなどについて詳しく紹介していただきました。
その中でも堺さんは「徹底的な苦痛の緩和」を大事にしているとし、「個人差はあるが、看取り前に出てくる様々な苦痛を緩和し、日常生活を支えるのが看護の大きな役割」と話されました。また、家族のサポートについては、OPTIM(緩和ケア普及のための地域プロジェクト)発行の『これからの過ごし方について』のパンフレットを紹介し、看取りがはじめての家族や今後に不安を持つ家族に対して、「読んでおいてください」ではなく「今の状態を一緒に考えていく」ために利用してほしいなどと、具体的な看護支援について話されました。
次に講演していただいたのは、大分豊寿苑訪問看護ステーション 緩和ケア認定看護師の稲生 野麦さんです。講演では「在宅チームによる看取り」をテーマに、在宅ケアの内容と役割や、ケアをするにあたり大事にしていることなどについて話がありました。
また、在宅チームの活動として、何気ない日常の継続の演出や外出支援、家族支援などについても、実際の写真を交えて紹介がありました。外出支援では「危ないからしないでおこう」ではなく、「どうすれば実現可能か」をご家族も交えてチームで話し合いをされているそうです。また、こういった思い出ができることも、見送った後のご家族の助けになることもあると話されました。
最後に「『看取り』という言葉から臨終期のケアのみが焦点化されがちだが、在宅では日常生活の営みの過程に存在する。人生の最終段階の生活の過程を『その方らしく生きる』ことができるよう、在宅チームのチーム力を培ってゆきたい」と今後の展望を聞かせてくださいました。
第2部では「最期まで『大切な人と人生を歩む』」をテーマに、ご家族の看取りに献身的に関わってこられたご遺族のお二人に、配偶者(パートナー)と子供、それぞれの立場からお話していただきました。
「配偶者からみた看取り」についてお話いただいたのは、東 優里さんです。東さんにはパートナーを看取られた体験についてお話をしていただきました。東さんのパートナーは漫画「家裁の人」の原作者でもある毛利甚八さん(ペンネーム)です。講演では毛利さんとの出会いから、食道がんが発覚して余命が半年と判明した時、子供たちへの告知、当院での抗がん剤治療、病状の改善と悪化、在宅での看護、お亡くなりになった時、看取られたその後などについて、その時その時の状況を本人や家族の心情を交えながらお話をしていただきました。東さんは「私にとっては主人が残してくれた本が悲しみを癒す一つの手段になっている。これは私にとって遺言のようなもので、主人が生きた人生が価値のあるものだったと証明するのは、残された私たち家族が精一杯生きることなんだと言ってくれている気がする」と話されていました。
その後、「子供からみた看取り」についてお話いただいたのは、水江 裕子さんです。水江さんには母親を看取った経験についてお話をして頂きました。母親に乳がんが見つかった時のことや、余命を1年と宣告された時の想い、その後の父親を含めた日常生活の様子、認知症を発症し会話にならない状況、在宅での看護と在宅ケアサービスの利用、看取りの様子など、子供の立場から見た看取りについて思いを伝えていただきました。
水江さんは「看取った時は余命を宣告されて5年が経過しており、本人は分からないが私たち家族としては『やれることはやってきた』という満足感があり、余裕を持って看取ることができた」と、献身的に母親を介護し、看取りまで伴奏された思いを話されていました。
閉会の挨拶で麓医師は「患者さんご家族と一緒に治療をしていて気掛かりだったのが、見送った後に積極的な治療を行っていた医師が関われないということ。医師は関係ないということではなく、ご遺族のケアにも取り組んでいきたいという思いがありました。今後もこうした看取りの会を継続して開催していきたい」と話しました。
多くの皆様にご参加いただき、ありがとうございました。身近な人の看取りだけでなく、ご自身の看取りについても考える機会にしていただけたのではないでしょうか。大分中村病院では、今後も参加者の皆さんからいただいたご意見等を元に、看取りの経験を語る会を引き続き開催・運営していきたいと考えております。
(経営戦略部 羽田野)