OITA NAKAMURA HOSPITAL

Series[ 連載 ]

なかのひと、わたしたちの「こころざし」

病院がより良くなるためにー
医療の現場を支える静かな司令塔

大分中村病院 経営支援課

玉井 友啓(たまい ともひろ)

Series なかのひと vol.7

玉井 友啓

大分中村病院 経営支援課

玉井 友啓(たまい ともひろ)

プロフィール

和歌山大学経済学部で経済や経営を学び、大学卒業後大分中村病院に入職。総務部、経営戦略部を経て現在は経営支援課所属。収益分析や部署間調整など病院運営を“支える”役割を果たしている。現在は広報も担当し、職員一人ひとりの想いや病院の取り組みを発信し、安心と信頼を地域へ届ける。

偶然から始まった医療との縁

医療の最前線に立つのは、医師や看護師だけではない。その医療を裏側で支え、病院全体を円滑に動かす静かな司令塔のような存在がいる。表からは見えないが、なくては成り立たない―まさに病院の土台ともいえる組織だ。それが、病院経営を支える事務の仕事。経営支援部で病院の運営を支えつつ、広報としても病院の想いを届ける玉井も、そのひとりだ。

職員専用の扉の向こう。そこには、表にはあまり姿を見せない職員たちが慌ただしく行き交う。そんな引き締まった空気の中、パソコンに向かい、黙々と数字を追う玉井の姿があった。院内全体の収益分析から必要な情報を各部署へ届け、“何が必要か”を読み取る。それは、医師や看護師が安心して医療に集中するための“見えない仕事”だ。

玉井が医療の世界に足を踏み入れたのは、偶然の出会いだった。大分国際車いすマラソンに携わっていた姉を通じて、当時の大分中村病院事務長から仕事の誘いを受けた。和歌山大学の経済学部に在籍しゼミでは福祉について学び、医療に関心を持っていた玉井は、地元・大分へのUターンを考えていたこともあり、医療現場に飛び込んだ。

「病院のことは何も知らなかった」と当時を振り返る。少しの不安を抱えながらも、医療の現場で“新たに知ること”への期待は膨らんでいた。

部署を横断し、現場を動かす調整役として

入職後、最初に配属されたのは総務課。事務当直、他部署の事務作業、備品管理など、地道な業務を4年間積み重ね、病院全体の動きを体で覚えた。

転機は、経営改善のために新設された「経営戦略部」への異動だ。医療機器の投資管理を担当するなかで、初めて何百万・何千万という単位の資金に触れた。そんな中、各部署との細かなやりとりに触れながら、病院経営に関わる一定の考え方が身についたという。この頃、経営をともに支えた上司との出会いも大きかった。「当時の業務や上司から学んだ病院経営の成り立ちや考え方は、今の自分の礎になっています」。

その後、部署名は「経営支援課」に変わり、病院経営については「経営戦略部が考えればいい」という風潮から、各部署が自ら考えることを促す方向へと舵を切った。経営を“方向づける”だけでなく、“支える”ことへと役割が進化した。

「効率化」を図るのは、より良い医療を提供するため

現在の玉井の仕事は多岐にわたる。経営面では月次の収益・費用の確認や分析に加え、新たな業務やプロジェクトを進める際の「調整役」として、部署間の橋渡しを行う。

これまでに印象深く記憶に残っている仕事は、新病院移転プロジェクト。建物が変われば、現場の運用体制も大きく変化する。玉井は各部署を集めてミーティングを重ね、現場がスムーズに機能するための仕組みを少しずつ形にしていく調整役を担った。

その経験は、現在の取り組みにも活かされている。近年注目される医療現場の人材不足や働き方改革に対応するため、業務の効率化や最適化を目指したDX・AXの検討にも取り組んでいる。調整役というのは、決して容易ではない。医師、看護師、メディカルスタッフ―それぞれが異なる視点と優先順位を持っている。

「いろんな職種の人たちの“譲れない部分”があります。それぞれの立場を尊重することを心がけて、お互いの譲れない部分を調整し、平等でよりよい落とし所を見つけるようにしています」。

そんな玉井が常に心に置いているのは「病院がより良くなるために」という想い。それを実現するのに大切なのは「患者さんに不便や不利益がないようにすること」という。業務の効率化は単なる数字のためではない。現場の非効率は、患者さんを長く待たせることにつながる。だからこそ、改善の先にいる“患者”を意識し続けることが業務の原点となる。

もちろん、経営の視点も欠かせない。健全な病院運営があってこそ、質の高い医療は提供できる。その仕組みを支えるのが、経営支援課の役割だ。

そんな玉井にとって、何よりの喜びは、現場からの感謝の言葉。「自分が最終決定したことが現場でうまく回ったときは本当に嬉しいです。他部署と関わる機会が多いので、些細なことでも『ありがとう』と声をかけてもらえると、やってきてよかったなと思えます」。

広報という新たな挑戦、医療を支える確かな力に

さらに2024年からは、広報も担当。前任者の退職をきっかけに、「病院がより良くなるために、誰かがやらなければ」という想いから、自ら手を挙げた。院内広報誌『リバイタル』をはじめ、ホームページ改修や情報発信などを担当し、病院の“顔”をつくる役割を担っている。趣味のカメラを活かし、自ら写真や動画も撮影し、文章を仕上げる。

「多忙な医師やスタッフの“人となり”を発信できるのが、この仕事の面白さ。普段患者さんが知ることのできない部分を伝えられることにやりがいを感じます」。そう語る玉井の表情には、自身の役割への確かな誇りがにじむ。

『リバイタル』での発信を通じて、少しずつ手応えも感じ始めている。たとえば、実際にインタビューを受けた方が「昔の恩師が長浜地区に住んでおり、記事を見て声をかけてもらった」と話してくれたそうだ。

「記事をきっかけに、患者さんは医師に対してより親しみを感じて受診してくれているのでは」と玉井は話す。こうした反応は院外にとどまらず、同じ職場の職員同士にも広がり、お互いの経緯や想いを知るきっかけにもなっている。

『リバイタル』では、医師だけでなく多職種の職員にも焦点を当て、病院の中で働く一人ひとりの想いや姿勢を伝えることを大切にしている。今後は、さらに幅広い職種の職員や他院との連携も発信していきたいと考えている。「最近印象的だったのは、河野脳神経外科病院様との対談。その院長の考え方や病院の成り立ちを知ることができ、大変興味深かったです。医療機関同士のつながりは見えにくい部分なので、院内の医療従事者や患者に知る機会を提供していきたい」。

※河野脳神経外科病院様との対談記事はこちら

こうした発信に力を入れる背景には、「患者さんの安心感」につなげる明確な意識がある。大分中村病院は、大規模医療機関と地域のクリニックの“間”にあり、患者がスムーズに次のステップへ進めるよう導く“ハブ機能”としての大きな役割を担っている。そのため、日常的に通う病院とは違った初めての場所に対し、不安を持つ患者も少なくない。

だからこそ、病院で働く人々の姿勢や想いを丁寧に伝えることで、患者さんの不安を取り除き、「ここなら安心できる」と感じてもらうことが大切なのだという。

「大きな病院になればなるほど不安なことも多いと思うので、患者さんの不安を少しでも和らげてあげたい。そして最終的に心身的・社会的に満たされた状態、つまりウェルビーイングな状態を作り上げたいです」。

事務の仕事は決して目立つものではない。しかし、事務がうまく回っていないと病院は混乱してしまうと玉井は言う。

静かに、けれど確かな力で病院を動かす土台のような存在。その姿勢には、医療を支えるプロフェッショナルとしての揺るぎない意志が宿っていた。

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