―心臓リハビリテーションの目的や対象の方、具体的な内容について教えてください。
黒田:対象となるのは、心臓の病気を抱える患者さん全般です。手術後の方はもちろん、心不全など循環器疾患のある方、加齢に伴って心機能が低下してきた高齢の方も含まれます。施設によっては、先天性心疾患のあるお子さんを対象にリハビリを行っているところもあります。
山口:リハビリの内容としては、運動療法メインではあるんですが、それだけではありません。私たちは患者さんと40〜60分ほど一緒に過ごすので、その時間の中で生活背景や生活習慣、食事、喫煙や飲酒の状況なども丁寧に伺っています。その情報を、医師や看護師、療法士、管理栄養士、薬剤師など多職種で構成される心リハチームで共有し、一人ひとりに合ったプランニングをしていきます。
黒田:「心臓リハビリ」と聞くと、皆さん運動をするイメージがあると思いますが、実は運動療法は全体の一部なんです。実際は医師の指示のもとに、さまざまな専門職が関わり、患者さんを包括的に支えていく。その中の一つの役割として、私たちが運動療法を担っているというイメージですね。
ただ役割を完全に分けるということでもなくて、お互いの専門性を補完し合いながら関わっています。例えば、血圧管理は看護師、食事は管理栄養士が専門ですが、私たちも患者さんと接する中で血圧や食事について伝えなくてはいけないところがあったりします。それぞれが少しずつ領域を重ねながら、患者さんを支えているのが心臓リハビリテーションの特徴だと思います。
もう一つの特徴としては、心リハは患者さんの状態に応じて個別リハビリも行いますが、集団リハビリを基本としています。運動習慣のない患者さんも多い中、周りの患者さんが頑張る姿を見ることで「自分も頑張ろう」という気持ちが生まれます。さらに、運動の合間の交流がお互いの励みとなり、リハビリを楽しみながら継続できることも集団リハビリならではのメリットです。

―2014年頃に心臓リハビリテーションを立ち上げた経緯を教えてください。
黒田:当院はもともと整形外科の患者さんが多く、リハビリも整形外科を中心に行っていました。私は10年以上前、他院に勤務していたんですが、そこは高齢化が進む地域で、心不全など循環器疾患の患者さんが増えていく現場を経験していました。その頃から“心臓リハビリテーションの必要性”を感じていたんです。当院へ移ってからも、先生方と「心リハのニーズはある」という認識は共有していました。ただ、当時は制度面や施設基準など、立ち上げるためのハードルが高く、すぐに始められる状況ではありませんでした。少しづつ先生方の協力をいただきながら必要な設備を整え、施設基準を満たし、ようやく心臓リハビリテーションをスタートさせることができました。
―ゼロから心臓リハビリテーションを立ち上げるには、様々な苦労があったのではないでしょうか。
黒田:一番大きかったのはスタッフの教育ですね。心臓病の患者さんに対しては「運動させて本当に大丈夫だろうか」という不安を持つスタッフも少なくありません。安全性を最優先に考えることは大切ですが、必要以上に慎重になると、リハビリが十分に提供できません。リスク管理をしっかり行いながら取り組むことで、患者さんもより安心できます。そういった部分でスタッフの教育がまず必要でした。
また、心臓リハビリテーションは多職種が関わる包括的な治療です。その体制をつくるためには、他部署にも協力をお願いする必要がありました。幸い看護師や管理栄養士、検査技師の皆さんは早い段階から参加してくれて、何をすればいいかわからない状態の中、それぞれ役割を見つけて、今ではチームとして機能するようになってきました。振り返ると、その時期が少し大変だったように思います。

―特に印象に残っている患者さんはいらっしゃいますか。
黒田:一番印象に残っているのは、心リハ第1号の患者さんです。その方は心臓移植が必要な40代の男性患者さんで、移植を受けるためには県外の医療機関が定める体力基準を満たす必要があったんですが、5メートル歩くのがやっとという状態でした。
当時リハビリ室はありましたが、そこまで移動できなかったので、運動用の自転車を病室まで運び、医師や看護師と一緒に患者さんの様子を診ながらリハビリを行いました。医師が心電図や全身状態を確認し、看護師が血圧を測定する。その情報を見ながら負荷を調整していく。そんな手探りのスタートで、試行錯誤しながら支援を続けた結果、移植に必要な基準をクリアするまで回復し、無事に心臓移植へつなげることができました。今でも忘れられない患者さんです。
―皆さんはどのような形で心臓リハビリテーションに関わるようになったのでしょうか。
山口:心リハは、まず医師からリハビリのオーダーが出るところから始まります。その後、私たち理学療法士が患者さんに介入し、状態を見ながらリハビリを進めていきます。僕自身は、入職してから呼吸器疾患など内部障がいの患者さんを担当する機会が多くありました。その中で自然と心リハの対象となる患者さんに関わることが増え、興味を持ったのがきっかけです。
石井:私は数年前入職する以前から、心臓リハビリテーションに携わっていました。転職の際、心リハができる病院を探していて、大学から大分中村病院を紹介していただいたんです。
当時は「心リハを始めてまだ数年」というタイミングだったと思います。だからこそ、これまで培ってきた知識や経験を生かしながら、日々の業務に貢献できればという思いで入職を決めました。入職時にはすでに「心臓リハビリテーション指導士」の資格も取得していたので、「心リハの分野で力を発揮してほしい」との言葉をいただき、今に至ります。

―「心臓リハビリテーション指導士」の資格を取得されていますが、どのような思いから取得を目指されたのでしょうか。
山口:入職1年目に黒田さんがプリセプターとして指導してくださり、自然と心臓リハビリテーションに携わる機会が増えていきました。将来のキャリア形成を考えたときに、内部障がいの領域でスキルアップできたらと思って。そこで心臓リハビリテーション指導士という資格があることを聞き、「挑戦してみよう」と思ったのがきっかけです。
石井:以前勤めていた病院には、心臓リハビリテーション指導士の資格を持つスタッフが多く、資格を取得することが当たり前の環境でした。心臓リハビリテーションを学び始めた頃は、全く知識がなかったので、心リハ指導士を取るための本でずっと勉強していたんですね。勉強を進めるうちに、知識と資格の勉強をすれば、資格取得そのものが目的でなくてもいいのかなとは思ったんですが、資格があることで自分の自信に繋がるなら、受けてみようと思いました。

―資格を取得されてから、患者さんとの関わり方に変化はありましたか。
石井:変わりましたね。「なぜ心臓リハビリテーションが大切なのか」を、患者さんにしっかり伝えることができるようになったと思います。入院中にリハビリを行うことはもちろん大切ですが、退院後の生活もなお重要なんです。その大切さを、どのタイミングで、どのような言葉で伝えれば患者さんに理解していただけるのかー資格取得に向けて学びを深めたことで、その伝え方も少しずつ身についてきたと感じています。
山口:私も石井さんと同じです。資格取得前と比べると、患者さんへの指導の質は大きく変わったと思います。以前は、「心臓が悪いのに運動をして本当に大丈夫なのか?」という漠然とした考えが自分の中にもありました。でも、勉強を重ねる中で、「ここまでは良い」「この先は良くない」といった判断基準を理解できるようになりました。今は安全性に十分配慮しながら、より効果的な運動療法を提供できるようになったと感じています。
黒田:資格そのものを患者さんが意識されることは、ほとんどないですよね。患者さんからすれば、資格を持っていない人が対応しても、あまり変わることはないのかもしれません。
ただ自分自身の中で「自信を持つために日々勉強し続けなくてはいけない」「よりしっかりとした説明をしなければいけない」といった責任感が強くなりました。
山口:僕も資格を持つことで責任感も強くなったので、常に学び続けなければいけないと感じています。あと、資格取得に向けて勉強したり、その後も学会やセミナーに参加したりする中で、知見が広がりました。おかげで多職種とも話がしやすくなったと感じています。
黒田:院内だけでなく、院外とのつながりも広がりましたね。学会などで県内の同じ資格を持つ方と顔を合わせる機会が増えて、新しい取り組みについて相談したり、意見を聞いたり、情報交換ができるようになりました。また、「心リハのことなら大分中村病院の山口さんや石井さんに聞いてみよう」と言ってくださることも増えてきました。そうして県内で顔の見えるネットワークができたことも、この資格を通じて得られたよかった点ですね。

―日々様々な患者さんと向き合われていますが、皆さんが感じるやりがいについて教えてください。
石井:2年ほど前から外来の心臓リハビリテーションが始まりました。以前は、退院された後の生活を知る機会がなかったんですが、外来が始まったことで、退院された患者さんがその後どのように生活されているのか見えるようになりました。退院後の生活まで支援をつなげられるようになったことは、大きな喜びを感じます。
山口:私がやりがいを感じるのは、チームで試行錯誤したことが患者さんの結果につながった時です。例えば、再入院を繰り返していた心不全の患者さんについて、「退院時に何が足りなかったのだろう」「次はこういう支援をしてみよう」と、チームで何度も話し合います。その結果、しばらく経って「最近あの患者さんは入院してきませんね」と話題になると、チーム全員で動いて患者さんを支えられてよかったと実感します。
黒田:心臓病の患者さんは、「怖いから動きたくない」という方もいらっしゃるんですね。そういう方にも安全を考慮して、少しずつ調子に合わせて運動を進めていきます。最終的に「入院前とあまり変わらない生活が送れる」というところまで患者さんが自信を持ってくれたときは、やりがいがあると感じます。


―心不全は再入院が多い病気だと伺いました。その背景にはどのような課題があるのでしょうか。
黒田:再入院が多いのは、高齢化が進んでいることが原因ですね。加齢に伴って心臓の機能が低下し、心不全を発症する患者さんが非常に増えています。「良いリハビリができた」と思って退院されても、そんなに時間を空けずに再び入院されるケースが多いですね。
「2025年問題」と言われている通り、超高齢化社会が進んでいます。それに伴い、心不全患者さんも今後ますます増加すると予測されていて、再入院率の高さは国内でも課題となっています。だからこそ私たちが目標とするのは「再入院率を下げる」というより、患者さん一人ひとりが望む生活をできるだけ長く続けられるように、次の入院までの期間を少しでも延ばすことができるように、支援を続けられたらと思います。

―退院後どのようなことにご苦労されるケースが多いですか? また退院後に大事だと感じることはありますか?
石井:遠方にお住まいの方も多く、定期的な通院が難しいケースも少なくありません。山間部にお住まいで農業や畜産など体力を使う仕事に復帰される方もいます。入院中は毎日のようにリハビリを行っていますが、退院後に急に運動量が減ったり、反対に仕事へ復帰して心臓へ過度な負担がかかったりすることもあり、通院が難しい患者さんほど生活の様子が見えにくいため、心配もありますね。なので退院後の生活や運動をしっかり指導することが重要だと感じています。
あと、高齢の患者さんでは、「運動を頑張ること」に注目するのではなくて、その方がどのような生活を望んでいるのかを、どう生きていきたいかというところを大切に考えるようにしています。そういった観点から訪問リハビリとの連携もさらに充実させていきたいと思っています。
山口:退院後の訪問リハビリでは、運動だけでなく、体重や血圧を毎日測れているか、食事や服薬など自己管理ができているかなど、患者さんの生活そのものを見ることが重要になります。訪問に携わるようになって気づいたんですが、「以前より息切れが増えている」「足のむくみが強くなっている」といった心不全の初期症状のサインに患者さん自身が気づいてないことが多いんです。
退院時に指導していますが、高齢の患者さんも多いので、訪問リハビリなどを通じて継続的に生活を見守り、自己管理を支え続けることが、再入院を防ぐためにも大切だと考えています。

―大分中村病院ならではの心臓リハビリテーションの強みを教えてください。
黒田:当院の良さは、急性期から慢性、生活期まで一人の患者さんを切れ目なく支えられることだと思います。入院中の治療やリハビリで終わるのではなく、退院後は外来リハビリテーション、その後は必要に応じて訪問リハビリへとつなぐことができます。同じ病院の中で継続して関われるので、入院中の様子や生活背景などの情報を共有しやすく、患者さんの変化にもすぐ対応できます。そうしたシームレスな医療の提供はうまく機能しているのではないかなと思っています。
石井:実際に、外来リハビリに通われていた高齢の患者さんが、「通院が負担になってきた」というタイミングで訪問リハビリへ移行したケースもありました。患者さんの状況に合わせて対応できること、多職種が連携しながら継続的にサポートできることは、当院ならではの魅力だと感じています。
山口:循環器の先生方が、心臓リハビリテーションに前向きに取り組んでくださることも大きな強みですね。検査結果や治療方針などを踏まえて運動療法や生活指導がしやすくなります。
石井:そうですね。先生方との距離が近いですよね。リハビリ室に足を運んでくださることもありますし、電話で相談すればすぐに対応していただけます。ちょっとした疑問でも相談しやすい雰囲気があります。一方で、患者さんとの距離は私たちリハビリスタッフの方が近いというか、長い時間を一緒に過ごすことが多いので、生活面でのことを医師へ伝える「橋渡し役」を担うこともあります。


黒田:総合病院という環境も大きな強みですね。例えば、骨折で入院されたけど心臓に負担がかかっているとか、肺炎と心不全を併発しているとか、複数の病気を抱えて入院される患者さんは少なくありません。そうした患者さんに対して、「心臓の面ではこういう運動が必要ですよ」「ここに注意しながらリハビリを進めましょう」といった具合に、心臓リハビリテーションの視点で対応することができます。それを他のスタッフと共有しながらリハビリできるのは、総合病院ならではの強みだと思います。
私たち自身も他の疾患をしっかり勉強して、多職種・多診療科と協力しながら、より質の高いリハビリテーションを提供していきたいと考えています。
―皆さんが心臓リハビリテーションで目指していること、あるいは患者さんにとってのゴールとは何でしょうか。
山口:患者さんによって目標は本当にさまざまです。私たちは、その方のADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)を踏まえながら、一人ひとりに合わせた目標を設定しています。
例えば、「自宅でトイレまで歩けるだけの体力をつけよう」という方もいれば、「バランス能力を高めよう」という方もいます。また「術後退院したら子どもと一緒に思い切り遊ぶための体力や筋力をつけよう」という目標を掲げる方もいます。目指すゴールは一人ひとり違いますが、その人らしい生活を取り戻せるよう支援することが、私たちの役割だと思っています。


黒田:「この病院で心リハを受けて良かった」と患者さんに感じてもらえることが一番ですね。そう思ってくださる患者さんが一人でも増えていけばいいんじゃないかなと思っています。
石井:私たちが大切にしているのは、やはり再入院を防ぐことです。心リハの患者さんは再入院を繰り返しやすいのですが、その原因をしっかり追求しないと、同じことを繰り返してしまう可能性があります。なので「ベースとなる悪いところ」「入院することになった理由」は常に追求するようにしています。入院中に原因追求ができて、そのプランニングが患者さんの生活につながった結果が見えると、とても励みになります。
―今後の展望や理想とする心臓リハビリテーションの姿についてお聞かせください。
黒田:大分県では現在、「心不全ポイント」という取り組みが進められています。これは、心不全について正しく知っていただき、患者さん自身が日々の体調や体重を管理できるよう支援する取り組みです。私たちも、そうした自己管理を支えるリハビリをさらに充実させていきたいと考えています。また、今後も一層入院から退院後まで、外来や訪問リハビリを通して継続的に確認しながら、患者さんを長く支えていける体制を築いていきたいと思います。
石井:私が理想としているのは、「悪くなる前に支える医療」です。心不全の患者さんは、症状が出て初めて入院されるケースが多いのですが、その前の段階で、少しずつ心臓に負担がかかりながら生活している方は地域にたくさんいらっしゃいます。例えば、高血圧などの生活習慣病も、将来的には心不全につながるリスクがあります。そうした方々がいち早く症状に気づき、適切な治療や生活改善につなげられるような啓発活動にも、力を入れていきたいと思っています。症状が出ていない方向けにも、市民公開講座などを通じて「予防」に取り組んでいただくことが、一つの理想だと思います。
黒田:前期高齢者から心不全の患者さんは増えていて、実際に健康診断などで高血圧や体脂肪の増加などのサインが出ていることも多いです。そうした小さな変化を見逃さず、地域全体で早期に気づき、支えていきたいですね。
石井:悪化するまで検査しない方も多くいらっしゃいますね。最近では、心不全の兆候を早期に発見するための血液検査を、地域の健康診断や地域の医療機関でも活用しようという動きも全国的に進んでいるようです。積極的に予防に取り組んでいきたいと思います。

―最後に、心臓病と向き合っている患者さんやご家族、読者の皆さまへメッセージをお願いします。
黒田:まずは医師の診察を受けていただいた上で、私たちは、患者さん一人ひとりの状態に合わせた生活の工夫や運動の方法を一緒に考えていきます。例えば、息切れしにくい動き方や日常生活での体の使い方、衣服の着替え方、お風呂の入り方まで、生活全体をサポートすることが私たちの役割です。どんなことでも遠慮なく相談していただきたいと思います。
石井:心臓リハビリテーションを実施している医療機関は、まだ多くありません。大分中村病院では、地域のクリニックとも連携し、外来心臓リハビリテーションを行っています。
例えば、かかりつけ医を受診した際に「心リハを受けた方がよい」と判断された場合には、ご紹介を通じて当院で外来心臓リハビリテーションを受けていただくことが可能です。
少しでも不安を抱えている方は、まずはかかりつけ医や当院へお気軽にご相談ください。
