OITA NAKAMURA HOSPITAL

Series[ 連載 ]

なかのひと、わたしたちの「こころざし」

回復の可能性を信じてー
患者とその家族の人生に向き合う認定看護師

大分中村病院 看護師主任/脳卒中リハビリテーション認定看護師

兒玉 沙織(こだま さおり)

Series なかのひと vol.10

兒玉 沙織

大分中村病院 看護師主任/脳卒中リハビリテーション認定看護師

兒玉 沙織(こだま さおり)

プロフィール

熊本保健科学大学で4年間看護を学び、福岡の大学病院へ入職。脳卒中センターと脳神経外科病棟で急性期医療の看護に従事。専門性を深めるため「脳卒中リハビリテーション認定看護師」を取得。2020年より大分中村病院に勤務。脳卒中の回復期の患者を中心に、身体機能の回復、および精神面・生活面の支援を行う。

脳卒中リハビリテーション認定看護師としての役割と使命

脳卒中は、ある日突然発症する病気だ。それまで当たり前だった日常が一変し、麻痺や失語、高次脳機能障がい(※)などの後遺症が残ることも少なくない。命が助かったとしても、患者とその家族には、将来や経済的な不安、役割の変化など、長い時間をかけて向き合っていく課題が待っている。その回復の過程を看護の立場から支える専門資格が「脳卒中リハビリテーション認定看護師」である。

大分中村病院の5南病棟でその専門性を発揮しているのが兒玉沙織看護主任だ。脳卒中の回復期の患者を中心に、身体機能の回復だけでなく、「障がいとともにどう生きていくか」「家族がどう支えていくか」「再発を防ぐために基礎疾患をどうコントロールするか」といった精神面や生活面も含めた支援を行う。

※病気(脳卒中など)や事故によるケガで脳の一部に損傷を受けたことで、それまで当たり前にできていた日常生活や社会生活に支障が出てしまう状態のことです。

「脳卒中の患者さんは、普通に生活していた方が突然発症することが多いんです。命が助かっても、そこから障がいと向き合っていかないといけない。現実を受け止めていく過程を支えることも、私たち看護師の大切な役割です」。穏やかな語り口調の奥には確かな信念がうかがえる。

あのとき、不安に寄り添ってくれた看護師さんのようになりたい

看護の道を志したきっかけは、元気だった母親の突然の入院だった。まだ高校生だった兒玉は、病室を訪れるたびに、不安な気持ちを抱えていた。

「その時、看護師さんが毎回母の様子を教えてくれたり、声をかけてくれたんです。看護師さんは患者だけでなく、家族にも寄り添ってくれる存在なんだと知りました」。

その経験を担任の教師に話したところ、「人と関わることが好きなら、看護師はどうか」と勧められた。それが看護師を目指す後押しとなった。

「あのとき出会った看護師さんのような存在になりたい」―その想いを抱き、高校卒業後は熊本保健科学大学で看護を学び、福岡の大学病院へ入職した。当時配属されたのは、脳卒中センターと脳神経外科病棟。急性期医療の現場で脳領域の看護の難しさに直面しながら、幾つもの症例に向き合い、経験を重ねた。

その後、熊本の大学病院に入職し、回復期医療に携わるようになる。急性期で救命された患者が少しずつ生活を再建していく過程に深く関わる中で実感したのは、大きなやりがいだった。「私たちの関わり方次第で、患者さんは確実に変化すると実感しました。そこにやりがいを感じるようになったんです」。

「脳卒中看護が好き」確かな気持ちが一歩踏み出す勇気に

看護師7年目。より専門性を深めたいとの思いから、脳卒中看護の専門資格である「脳卒中リハビリテーション認定看護師」の取得を目指した。新人時代に指導してくれた先輩看護師がこの資格を取得し、専門的な視点で患者を支える姿を間近で見ていたことも大きな影響を与えたという。

「評価の視点、チームへの働きかけ、患者・家族への説明、一つ一つに根拠と深みがあり、すごいなと思っていました」と当時を振り返る。

とはいえ、その時は自分が認定看護師を取得するとは思っていなかった。「憧れはあっても、率先してリーダーシップを取るタイプではないので、自分には無理かもと感じていました」と笑う。そんな中、認定看護師教育課程が母校(熊本保健科学大学)で開催されることを知る。「挑戦しなければ何も変わらない」という思いと、当時の院長の「脳卒中患者さんの看護が好きなら挑戦してみたら」という言葉もあり、受講を決意。半年間、病院を離れ、座学と実習を通して、脳卒中看護の理論と実践を体系的に身につけた。「迷いもありましたが、“脳卒中看護が好き”という気持ちが私を一歩踏み出させてくれたのだと思います」。柔らかな表情の奥に、揺るぎない確信が感じられた。

その後、2020年に兒玉は大分中村病院に入職。急性期から回復期まで関わりを持つことができるケアミックス病院だったことが大きな理由だ。「脳卒中は急性期の迅速な対応が命を守り、その後のリハビリテーションが生活の質を左右します。だからこそ切れ目なく関われる環境で看護をしたいと思いました」と振り返る。

また、長く働き続ける上で、当時幼い子供を持つ母親として子育て支援制度が充実していたことや、資格取得の支援など教育体制が整っており、専門性を高め続けられる環境があることも魅力だった。

先を見据えて回復の過程で、看護師として大切にしていること

脳卒中の認定看護師として着実に成長してきた兒玉が、患者との関わりにおいて特に大切にしているのは「脳の“可塑性”」だ。脳は一度損傷した部分の機能を、周囲の脳が補うように再学習していく力があり、回復の可能性は一人ひとり異なる。その回復は自然に起こるだけではなく、どの時期にどのような刺激を与えるかによって大きく左右されるという。

「私たちが想像していなかったような回復をされる患者さんもいらっしゃいます。だからこそ、その人に必要な支援を見極めながら関わっていく。最初から可能性を決めつけないことが大事だと思っています」。

これまで関わった患者の中で、印象に残っている出来事がある。

60代の男性患者だった。
家族は施設入所を希望していたが、本人は「自宅に帰りたい」と強く望んでいた。現場では、必ずしも患者と家族の希望が一致するとは限らない。その間に生まれる“ズレ”を調整するのも、看護師の重要な役割なのだ。

「若い方でしたし、ご本人の帰りたい気持ちも強かったんです。そこで、どうすれば自宅で生活できるかを一緒に考えました」。

退院後の生活を見据え、時間をかけて家族とも話し合い、最終的には自宅退院が実現した。後日、外来で再会したときの言葉と笑顔は今でも記憶に残る。

「やっぱり家がいい。兒玉さんと看護師長がいなかったら帰れなかった」

外来に一緒に来ていた家族も穏やかな表情で寄り添っていた。関わることができてよかったと心から安堵した瞬間だった。

脳卒中看護において難しいと感じるのは「障がいを受容する過程を支援すること」だという。脳卒中の患者は、怒りや否認、落胆、不安など、さまざまな感情の間を揺れ動く。回復への期待と現実の間で葛藤する姿に向き合うには、専門的な知識だけでなく、相手の人生に寄り添う覚悟が求められる。「“受容させる”のではなく、“その人が自分と向き合う時間を支える”という姿勢が大切なんです」

障がいの受容は入院中に完結するものではない。むしろ本当の葛藤は、退院後の日常生活の中で生まれることも少なくない。だからこそ、支援は退院までではなく、その先の人生を見据えたものでなければならないという。 「入院中にすべてを解決することはできません。でも退院後に揺れた時に思い出してもらえる言葉や経験を残すことはできる。障がい受容を“到達点”ではなく、“揺れながら続いていくプロセス”だと考えています。そのプロセスに寄り添える存在でありたい」。穏やかな口調で語るその言葉には、患者一人ひとりの歩みに寄り添い続けてきた看護師としての実感がにじんでいた。

これからも学び続ける姿勢を大切に、次世代へつなぐ

認定看護師だからとはいえ、特別なことをしている感覚はないという。ただ専門教育を受けたことで、すべてのケアに“根拠”を持つようになった。「患者さんの状態を見て、適切な時期と支援の必要性を自信を持って説明できるようになりました。看護に迷いが少なくなったと思います」。

それでも、慢心することはない。スタッフから質問を受けると、すぐに答えず文献を調べ直すこともある。「自信はつきましたが、自信を持ちすぎないようにしています。学び続けることが大切だと思っています」。

そんな兒玉が指導において重視するのは、患者さん一人ひとりの状態を共に考えながら学ぶことだ。脳卒中看護は、教科書の知識だけでは理解しにくいことも多い。患者さんごとに症状が異なるため、一人ひとりの状態や経過と向き合いながら学ぶことを何より大事にしているという。

一方で管理職としての課題も感じている。「育成のため、なるべくスタッフが主体的に動ける環境を作れるようになりたいと思っています」。認定看護師としての専門性と管理職としての視点。その両方を常に磨いていくことが目標だ。

最後に兒玉はこう話した。

「脳卒中は、ある程度予防できる病気でもあります。特に重要なのが、血圧管理など基礎疾患のコントロール。早期発見がとても大事なので、少しでも異変を感じたらすぐに受診すること。『こんなことで来ていいのかな』と思う方もいるかもしれません。でも、何もなければそれで安心できます」。

患者とその家族の未来を守るために。
そして、可能性をあきらめないために。

兒玉は今日も病棟で、「その先の人生」を見据えて、患者とその家族に向き合い続けている。

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