OITA NAKAMURA HOSPITAL

Series[ 連載 ]

なかのひと、わたしたちの「こころざし」

その人の日常をより良くするために
整形外科医が貫く“人と向き合う医療”

大分中村病院 整形外科部長

立山 正道(たてやま まさみち)

Series なかのひと vol.9

立山 正道

大分中村病院 整形外科部長

立山 正道(たてやま まさみち)

プロフィール

大学病院をはじめ、大分県内・県外の他病院での多様な経験を経て、2005年より大分中村病院に勤務。四肢の外傷一般、股関節・人工関節を中心に診療にあたる。2026年関節などの痛みを軽減する「Coolief(クーリーフ)治療」の導入にいち早く取り組み、患者さんの生活をより良いものにするための医療に向き合っている。

立山医師の原点―整形外科へ進むきっかけは自身の経験から

「整形外科の役割は患者さんの日常生活動作を楽にしてあげる。より良いものにしてあげること。例えば近所に買い物や旅行に行ける。日常を楽しめるように」穏やかな口調でそう語るのは、大分中村病院整形外科部長の立山正道医師だ。

外傷から人工関節、高齢者医療まで幅広く担い、2026年2月には県内でもまだ導入例の少ない新しい「Coolief(クーリーフ)治療」をいち早く病院に取り入れた。立山医師が一貫して向き合っているのは「その人の生活をより良くするための治療」だ。

子どもの頃の夢は、エンジニア。乗り物やエンジンに心を躍らせ、仕組みを考えるのが好きな少年だった。医師になろうと強く意識したわけではないが、医師である父の姿は、いつも日常の中にあった。「夜中に呼び出されるのも見ていましたし、大変な仕事だなとは思っていました。特別な世界というより、身近な存在でしたね」。親戚にも医師が多い家庭環境ということもあり、気づけば、医療の道は自然な選択だった。初めから整形外科を志していたわけではない。転機となったのは、大学進学後の自身のケガだった。

大学1年生の時、バスケットボール中に足を負傷し、初めて整形外科に入院した。「整形外科の病棟って、明るいんですよね。リハビリを頑張っている人がいて、こういう医療もあるんだと知りました」。

さらに6年生の時には膝をけがし、再び整形外科病棟で過ごすことになる。リハビリも2度経験した。台の上でのバランストレーニング、筋力トレーニング。決して楽ではないが、体が少しずつ応えてくれる実感があった。「整形外科は手を加えることで回復していく。それが面白いなと感じました」。 整形外科は、立山医師にとって手応えを感じた診療科だった。

1年ごとに変わる現場での日々から大分中村病院へ。長年培った医師としての価値観

大学卒業後、立山医師は大学病院の整形外科に入局。当時の若手医師は現場で鍛えられる時代だった。大学病院、九州労災病院、国東広域病院、アルメイダ病院など様々な病院を回り、1年ごとに環境が変わる中で、さまざまな症例と向き合った。「若い頃は、とにかく経験を積まないといけない。いろんな先生のもとで学びました」。

大分中村病院への入職が決まったのは2005年頃。

「当時院長だった中村太郎先生(現理事長)から『来月からウチだよ』と教えてもらって。僕より先に中村先生が知ってて、びっくりしました(笑)」。

着任当初、整形外科医はわずか3人体制。外傷から脊椎、関節まで、あらゆる症例に対応する日々だった。その後、医師も増え、役割は徐々に分化。立山医師自身も、自分が注力すべき領域を見極めるようになる。「自分ができることに集中しようと。外傷の症例数は増えましたね」。現在、立山医師は四肢外傷、関節疾患を中心に診療を行っている。

長年勤務する中で、立山医師には、今も記憶に強く残る患者がいる。若くして脊髄損傷を負った患者だ。「歩けない可能性」もある状態だったが、手術に臨んだ。その後リハビリを重ね、時間をかけて、少しずつ身体は応えていった。やがて、その患者は歩けるようになり、今でも、外来に顔を出してくれるという。

もうひとりは、病気によって背骨に血腫ができた患者だ。夜中の1時頃から朝方まで、手術はほぼ休みなく続いた。その患者も、術後に歩行機能を取り戻すことができた。時折忘れた頃にふらりと外来を訪れ、「先生」と声をかけてくれる。

「整形外科をやっていて良かったなと思いますね。長年同じ病院に勤務していると、その人と長く向き合うことができる」。

医療は手術が成功したかどうかで終わらない。その人が、その後、どうやって人生を続けていくかーその先を見据えて治療を考える必要がある。だからこそ、その人が“その後の人生をどう進んでいるか”を見届けられること。それが立山にとって医師としての喜びでもある。

患者の生活をより良くするための一歩 “足す治療”「 Coolief(クーリーフ)」

今、大分中村病院を訪れる患者の多くは高齢者だ。中でも整形外科外来の8割近くが高齢の患者で占められているという。膝の痛みや歩行困難など様々な悩みを抱えて訪れる。その多くが、加齢とともに進行する変化に起因しているという。そんな現場で、立山医師が大切にしている視点がある。「患者さんを“他人”ではなく、自分の父や母だったら、どうするかを考えます」。

不要な検査や過剰な治療は避けたい。手術も、可能な限り先を見据えて侵襲を小さくする。

「大きく切れば楽かもしれない。でも手術で終わりではなく、その先にリハビリがある。手術はあくまできっかけ。リハビリにどれほど取り組めるかが大事。だから痛みが持続しないように傷は小さくしたいと思っています」。

整形外科の基本的な役割は「機能的なことを改善してあげること」と立山医師は言う。ただ高齢で薬や痛み止めに頼るしかない場合もある。それが痛みの根本的な解決につながるわけではない。

そうした中、導入を進めたのが「Coolief(クーリーフ)治療」だ。この治療は、痛みを伝える感覚神経にラジオ波を当て、感覚神経を部分的に焼灼することで、痛みを軽減する治療。針を刺すのは数か所。身体への負担は最小限で済む。関節そのものを治す治療ではないが、痛みを和らげることで動きを取り戻すことができるという。

「薬やヒアルロン酸注射などの治療を行っても、痛みが軽減しない」「持病や高齢のために手術を受けられない」「手術を勧められたが、長期間の入院が困難」「まだ若くて人工関節をするには早い」―そうした患者にもう一歩 “足す治療”だ。

入院は1泊2日。安全性と安心感を重視した体制を整えた。「高齢の方は出血リスクもあります。一晩しっかり様子を見ることで、患者さんも安心できますし、僕たちも翌日に効果を評価できる」

まだ全国的にも始まったばかりの「Coolief(クーリーフ)治療」。大分県内でも対応する整形外科はまだ多くない。高齢化が進む地域医療の中で、その人の生活をより良くするための“支える医療”の重要性は、今後さらに高まっていく。

常に良い医療を提供するためにー確かなことを見極め、人と向き合い続ける

医療技術は常に進歩を続けている。「でも、何でも飛びつけばいいわけじゃない。本当にいいものを見極めて、取捨選択し、患者さんに還元していくことが大切だと思っています。自分が納得できるかどうか。そして、本当に患者さんのためになるかどうかです」と立山医師は語る。

より良い医療を求め、学び続ける姿勢を欠かさない。その背景には、整形外科医としての揺るぎない想いがある。「患者さん一人ひとりとどう向き合うか。親戚のような感覚で接しています」

その姿勢は、患者さんだけに向けられているわけではない。スタッフに対しても、立場の上下をつくらず、できる限り同じ目線で向き合うことを大切にしている。「話しやすい関係の方が、結果的にいい医療につながる」という。

多忙な日々の中でも、勤務後や休日には山を車で走ったりバスケットボールで汗を流す。

「楽しさが原動力です」と穏やかに笑う。誠実に、そして静かに、人と向き合い続ける。その背中には、確かな“こころざし”がある。その人の人生が、また前に進むために。

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