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第84回長崎形成外科懇話会／福岡県福岡市／2007.11.23
橈骨骨切り術後に長母指伸筋腱皮下断裂を発症したKienböck病の1例
大分中村病院 形成外科1）整形外科2）
○亀渕克彦1）、林田健志1）、遠藤淑恵1）、七森和久2）、園田広典2）
橈骨遠位端骨折等の手関節外傷後に長母指伸筋腱皮下断裂が、また進行したKienböck病に総指伸筋腱皮下断裂が発症することは知られており、その報告も散見されるが頻度は少ない。今回我々は、櫈骨骨切り術後に長母指伸筋腱皮下断裂を発症したKienböck病の1例を経験したので、若干の文献的考察を含め報告する。
症例は21歳、男性。主訴は右手関節痛であった。現病歴は、約3年前にテニスを始めた頃から、右手関節に痛みがあったが、程度は軽く日常生活に支障ないため、放置していた。重い物を持ったりすると、痛みが出現していた。2006年12月21日、当院整形外科受診。レントゲン上、月状骨の硬化・圧平を認め、Kienböck病の診断にて、2007年1月12日に橈骨骨切り術を行った。術後経過良好で、手関節可動域、痛みも改善し、レントゲン上Kienböck病の進行も認めなかった。術後約半年後の2007年7月1日に右手を使用中にブチッと音がして、右母指の伸展が不能となった。
術前は、月状骨の硬化、圧平化、分節化を認め、Lichtman分類Stage��aのKienböck病と診断された。
その後経過良好で、手関節可動域、痛みも改善したが、術後約半年の2007年7月1日、手を使用中にぶちっと音がして右母指の伸展が不能となり、長母指伸筋腱皮下断裂の診断のもと、2007年7月6日に手術を行った。
第１中手骨背側切開から長母指伸筋腱を引き出すと、断裂部は腫脹し腱膜も肥厚していた。固有示指伸筋腱の移行を行い、長母指伸筋腱の末梢健常部にinterlacing suture行った。
術後3ヶ月の状態で、屈曲・伸展制限もなく良好な結果である。
長母指伸筋腱皮下断裂の原因は特発性、橈骨遠位端骨折等の手関節外傷、遠位橈尺関節症、リウマチなどに発症することが知られている。また、医原性としては、手術操作による損傷や、ワイヤー、ボルトなどによる損傷例の報告もある。Kienböck病に関しては、第４区画の総指伸筋腱の断裂の報告はあるが、解剖学的に考えにくいと思われる。
断裂の機序としては、第3区画は狭く、血流に乏しく、またLister結節部で急峻に橈側に方向を変えることなど解剖学的なことが原因の一つといわれている。これに機械的刺激である外傷要因や炎症などによる阻血要因の両者が関与していると考えられている。
腱の皮下断裂を伴ったKienböck病の報告は散見されるが、まとまった報告は少ない。2005年に日手会誌に丹波らが自験例ならびに、ほぼすべての過去報告例をまとめて報告している。屈筋腱より伸筋腱のほうが多いが、伸筋腱は１例を除きすべて第4区画の腱断裂であったと報告している。また、2004年臨床整形外科に熊倉らは、自験例、過去報告例をまとめた29例の伸筋腱断裂を報告しているが、すべて第４区画の腱断裂であり、特に環指、中指に多かったと報告している。
よって、解剖学的に考えても、Kienböck病が長母指伸筋腱断裂に関与している可能性は低いと思われた。
治療は腱移行や腱移植が行われるが、簡便で結果もよいため、固有示指伸筋腱の移行が一般的に行われている。しかし、欠損や低形成の場合もあり、注意を要する。山口らは2003年日手会誌に第３区画の修復・拡大を行えば、固有示指伸筋腱などを犠牲にせず、本来の長母指伸筋腱を力源とした腱移植で良好な結果を得ることができると報告している。
【まとめ】
・橈骨骨切り後に長母指伸筋腱皮下断裂を発症したKienböck病の治療を経験した。
・固有示指伸筋腱移行にて良好な結果を得た。
・橈骨骨切り後であるため、橈骨遠位端骨折後と同じ状況と考えられるが、over useの影響が大きいと思われた。
・Kienböck病の皮下断裂への影響はないと思われたが、不明である。
・非常にまれではあるが、橈骨骨切り後に皮下断裂を発症する可能性も考えておくべきと思われた。
2007年12月17日（月）
No.480
(学術活動::抄録)
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